お薬のこと

お薬に関するメモやクリニカル・クエスチョンを中心に載せていきます。皆様の学習のヒントになれば幸いです。

トルバプタンが入院無しで処方が来た場合どうする?

トルバプタンが低用量であれば、本当に外来初発で処方が来ても交付して良いのか?
改めて考えることにした。

今回Twitterで教えてくださった文献はこちら。  日本人を対象に日本から出されている文献です。

 

トルバプタンは低用量であってもハイリスク群では、高ナトリウム血症の発生率が高い。 よって「低用量=3.75㎎」「外来で初回」で安易な処方はリスクが高い為、添付文書を守って初回は入院の管理下で使用するのが安全性が高いと判断できる。

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では、ハイリスクじゃない患者とは一体どんな群なのか?
table2 を参考に見ると、年齢以外は統計学的有意差が付いている。
その中でも血清Na値、BUN/Crが高いほど高Na血症のリスクが高い。つまり腎機能が低いと高Na血症のリスクが高くなる。
また本研究では年齢に統計学的有意差はついていないが、本研究のリスク換算式に含まれているのは、先行研究で80歳以上の場合も高Na血症の発生率が高い事が知られているためだと記載されている。

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以上の事から、「外来患者において若年者、腎機能正常な心不全患者」であれば初回から導入しても良いということになるのだろうか?

 

そもそもトルバプタンを導入しようとする患者層はどういう傾向が多いか知らねばならない。

主な大規模臨床試験として検索してみると、
1.ACTIV in CHF 試験(AMA. 2004 Apr 28;291(16):1963-71. PMID:15113814
2.EVEREST試験(JAMA. 2007 Mar 28;297(12):1319-31. PMID:17384437

<患者背景>
1.糖尿病が約50%、HFrEF、60歳代、心房細動が35%前後 
2.心不全入院患者、HFrEF(EF<27%)、NYHAⅡ(60%)、糖尿病(40%)

まず糖尿病がある時点で腎機能は下がる傾向を考えると、まずハイリスク群になるのではないだろうか? そして EF が比較的低い患者を対象に、標準的な利尿薬をすでに投与している群に使用してる。
よって、「外来患者において若年者、腎機能正常な心不全患者」の前提は崩れそうである。つまり外的妥当性が少ない。

従って、比較的低用量であってもトルバプタンを外来診療で入院対応なしで導入・処方された場合、添付文書通り対応するのが一番安全性が高いと考えられる。

 

参考

1.Circ J. 2018 Apr 25;82(5):1344-1350.PMID:29607892

2.ACTIV in CHF 試験(AMA. 2004 Apr 28;291(16):1963-71. PMID:15113814)
3.EVEREST試験(JAMA. 2007 Mar 28;297(12):1319-31. PMID:17384437)