お薬のこと

お薬に関するメモやクリニカル・クエスチョンを中心に載せていきます。皆様の学習のヒントになれば幸いです。

8月エビテンのスライド ~タムスロシンは白内障手術の影響を及ぼしますか?~

緑内障に抗コリンは使うか禁忌か?
この話題は、とても有名だが他にもタムスロシン辺りが眼科で注意した方がいいという話題を聞いたことがあったので、再度検索。

 

すると、こんなレビューが見つかりました。

α遮断薬の時代における10年間の術中フロッピー虹彩症候群

www.ncbi.nlm.nih.gov
PMID: 29732214

 

術中フロッピー虹彩症候群=術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)
とはなにか?

白内障手術中に虹彩が柔らかすぎる状態になる」症候群
「手術中に虹彩がペナペナになる」症候群

手術中に虹彩の変化で炎症など様々な事が起こる事象をいくつかひっくるめたもの・・・ってことですね。

 

さて、
これをきっかけに、今回のエビテンでの論文を読んでみました。
J Cataract Refract Surg. 2007 Jul;33(7):1227-34.
PMID: 17586379

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17586379

f:id:nitrotake8:20190825085655j:plain

結果として
n数が少ないのではないか?
オッズ比の幅が広すぎるのではないか? OR:32.15  95%CI:(2.74 to 377.11)
この文献だけで、白内障手術前の前立腺肥大症で、タムスロシン使用中の患者さんに対するアプローチをするには、根拠が薄いかもしれない。

 

しかし、
他にも、タムスロシンは
PMID:24314842  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubme 
E:タムスロシン(n=70)orアルフゾシン(n=43)内服中の、白内障手術予定の人
C:α遮断薬内服していない、白内障手術予定の人 n=113
O:IFISの発生率
【結果】
タムスロシン:34.3%(24/70)
アルフゾシン:16.3%(7/43)
対照:4.4%(5/113)
※タムスロシンよりアルフゾシンの方が多かった(P=0.036)

 

PMID:19454637 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=19454637

P:2002年から2007年の間に白内障手術を受けた66歳以上の男性をすべて n=96128
E:タムスロシン使用中 n=3550 他のα遮断薬 n=7426
C:α遮断薬なし
O:網膜剥離、水晶体または水晶体片の喪失、または眼内炎などのIFISの発生

【結果】
白内障手術14日前使用>
タムスロシン:7.5%対2.7%;OR:2.33(95%CI:1.22 to 4.43)
他α遮断薬:7.5%vs 8.0%;OR:0.91(95%CI、0.54 to 1.54)

白内障手術15~365日前使用>
タムスロシン:1.8%vs 1%;OR:0.94(95%CI:0.27 to 3.34)
他のアルファ遮断薬:2.9%vs2.1%、OR:1.08(95%CI:0.47 to 2.48)

白内障手術14日前のタムスロシン群は、有意にIFISの発生が高かった。

 

などで、

タムスロシンの使用でIFISの発生があり、注意喚起が必要と考えられる。
また、エビテンのキャス内でも教えていただいたのですが、ハルナール®の添付文書でも注意喚起が追加された模様です。

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α1遮断薬を服用中または過去に服用経験のある患者において、α1遮断薬によると考えられる術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)があらわれるとの報告がある。
(ハルナールD® 添付文書より)
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このような記載があった事に全く気が付いていませんでした(汗)

 

今回も新しい発見がありました。 注意していこうと思います。

 

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【追記】 Twitterで、休薬が必要ないのかも?というつぶやきがあったので、本当なのか?調べてみました。

~2019/8/27~

①Curr Urol. 2012 May; 6(1): 1–7.  PMID:24917702 
BPHの人がタムスロシンを使っているとき、IFISを防ぐためには休薬提案が必要か?
→休薬が利点である事、休薬期間が確立されておらず、不明のまま

 

②Ophthalmology. 2007 May;114(5):957-64 PMID:17467530
BPHの人がタムスロシンを使っているとき、IFISを防ぐためには休薬提案が必要か?
→休薬提案よりも、タムスロシン使用中を眼科医に伝えればOK。 知っていれば合併症率は低いよう

 

【結論】

休薬を眼科医に提案をするよりも、白内障治療をしていると分かった時点で「この方タムスロシン服用中だよ」って情報提供をしておくといいのかもしれません。

また休薬の必要性を考えるにあたって、虹彩の変化はどうやら不可逆的変化のようで、「休薬したから一旦虹彩の柔らかさ戻ったぜ」って訳ではなさそうです。

その辺も考慮した更なる議論が必要なようです。